夜景も全て君のもの



「あのビルがなかったらタワー見えるのになぁ…」
「ごめん、中途半端なくじ運のせいで」
「わ、いたの?お風呂入ってるのかと思った」


ソンミンは窓辺に座ったまま、顔だけ私の方に向けて微笑んだ。結婚式の2次会で当てたスイートルームの宿泊券。期限が迫っていたから、いつものお返しをしようと思ってソンミンを誘った。もちろん喜んでくれているのは知っている。でも自腹を切ってでもワンランク上の部屋を選べば良かった。そうすれば背伸びをしても見えない名所が、簡単にこの手の中で煌めいたのに。


「本当は旅行券狙ってたんだけど、外れちゃった」
「どっか行きたいの?」
「現実逃避したかったんだ。ハワイとか行って」
「そんなに現実が嫌?」
「今は幸せだよ。ソンミンが目の前にいるから」
「良かった。僕も一緒」
「タワーは見えないけどね」
「さっきの気にしてるんだ」


の方が綺麗だから大丈夫だよ。ありふれた言葉だとしても、ソンミンに耳元で囁かれたら心臓が止まりそうになる。お風呂上がりのせいなのか、ただ自分が勝手に温度を上げているのか分からないけど、暗闇の中で頬が火照っていくのを感じた。


、熱い」
「私のせいじゃない」
「じゃあ誰のせい?」
「…ソンミンだよ。分かってるのに聞かないで」
「ごめん、言わせたかっただけ」


ソンミンは相変わらずの爽やかな笑顔を見せて、そっと唇にキスをした。だんだん深く長くなる口付けに、意識がふわりと飛んでいく。そのうち唇の感触が下がっていくのに気付いて、抵抗する気はないのに、脚でソンミンの体を押し返してしまった。


、じっとしてて」


ソンミンは一瞬顔をあげると、私の足首をぎゅっと押さえつけた。この位置から動かしちゃダメ。蹴られそうで怖いから。そう言ってまた深度を進める。表情は見えなかったけど、柔らかい声のトーンでまた朦朧としてきた。静かな部屋に響く独特な音と舌の感触が、焦らすように、でも正確に私の神経まで掻き乱す。脚の力が抜けるほど甘い痺れが、遠く離れた脳にまで到達。


「…っ…もう、だめ…」
「早いけどいいよ。今日はのお陰で楽しめてるから」


もう1度唇にキスを落として、ソンミンは私の腰をぐっと引き寄せた。


「ちゃんと気持ち良くしてあげる」


返事をする暇もないくらいすぐにやってきた衝撃を受けとめながら、その言葉の意味を体で理解する。何度も押し寄せる快感を、朝が来て声が枯れるまで味わった。


2012.07.04