眠れない



「…眠れないんだけど」


大きな背中に向かって呟く。当の本人はうつ伏せで寝息を立てている。午前3時。早く布団に入りすぎたのか、興奮がまだ冷めていないのか、とにかく目が覚めてしまった。男の人に言うのも変だけど、綺麗な背中だ。肩のあたりにそっと口付けても微動だにしない。どうせ寝ているなら、と普段言えない言葉をいくつか投げかけてみた。日中のまともな頭では思いつかないような、恥ずかしい言葉の数々。でもユノは起きない。それならと、本当に伝えたい一言を発してみる。


「ユノ大好き」


やっぱり起きない。寝ているときに伝えたって意味はないけど、いつか素直に顔を見て言えるように予行演習。そのうちに瞼が重たくなって、次に目覚めたときにはベッドに1人だった。ユノが帰ってしまったのかと思ったけど、水の音がするからきっとシャワーに入ってるだけだ。今日は覚醒しているユノになかなか会えない。


、いつまで寝てんの」
「…え?」
「もう12時だよ」
「えっ」


そして次に目覚めた時は身支度を整えたユノがベッドに腰掛けていた。そういえば休みなのは私だけだった。中途半端に起きてしまったせいか、なんとなくシャキッとしない。


「仕事行くの?」
「うん、でもその前にお礼言おうと思って」


ユノが妙に悪戯っぽい笑顔を見せた。嫌な予感がする。これは絶対そうだ。夜に目を覚ましていたのは私だけじゃなかったっていうやつだ。


「もしかして夜中の独り言聞いてた?」
「は?何それ」
「え」
「肩のとこキスマーク付けたでしょ、って言いたかったんだけど」
「ああ、なんだそっちか」
「他に何かあるの?」
「昨日眠れなくて、夜中にちょっと独り言を」
「ああ、だったら俺ものこと大好きだよ」
「しっかり聞いてるじゃん!」


ユノは声を上げて笑いながら、ベッドの上で恥ずかしさに悶え苦しんでいる私の顔を覗き込んだ。


「でも嬉しいよ。たまにはの気持ちも確認しないと不安になる」


そう言って、さっきとはまた違う、優しい笑顔を向ける。お礼を言われるほど真面目な気持ちじゃなくて、ふと口に出した言葉なのに。でもユノが私のことで不安になったりすることが嬉しかった。だって私の一言がユノを安心させているっていう意味にもなる。自分で思っているより、私はユノの中で大きな存在となっているらしい。


「なんかまで嬉しそう」
「嬉しいよ。ユノが好きでいてくれるから」


お返し。ユノはそう言って私の肩にキスを落とす。次会える時に消えていても、心には一生残しておいて。


2017.11.16