電話



屋外の撮影で困ることの1つが雨だ。少しぐらいの雨なら撮影を続けることも多いけど、今日みたいなゲリラ豪雨に襲われた時はとにかく待つしかない。スタッフと話をしたり仮眠をとったり、差し入れのお菓子を食べてみたりと人によって合間の過ごし方は色々。そんな共演者の姿を見ながら何をしようか迷っていると、着信があったと言ってマネージャーが携帯を持ってきてくれた。普段なら留守電にするところだけど、画面に表示されている名前を見た瞬間、指が反射的に通話ボタンを押していた。


「もしもし」
「あれ?ドラマの撮影は?」
「してるけど、だったから出た」


勤務時間が決まってるわけじゃないし、いつでも連絡してと言っているのにはあまり電話をしない。だからこそ、急な着信に緊張気味の自分がいる。


「どしたの?大丈夫?何かあった?」


気持ちが先走って俺は一方的に捲し立てた。でも電話の向こう側から笑いを堪えたようなの声が聞こえてきて、少しホッとする。


「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「ごめん」
「今日会いたいなと思って」
「え?」
「他に用事あるなら別だけど」
「いや、大丈夫」
「なんかあんまり乗り気じゃなさそう」
「びっくりしてるだけ。がそんな理由で電話してくるなんて初めてだよね」
「うん、ボタン押すまでに30分ぐらいかかっちゃった」


は少し恥ずかしそうに言った。顔は見えないけど、が照れた時に良くやる仕草、俺しか知らないあの仕草が頭に浮かんだ。同時に自分がいつの間にか笑顔になっていることに気づく。


、今日は頑張って早く帰る」
「でもドラマの撮影でしょ?」
「関係ないよ。いま無性にに会いたくなった」


そして2人同時に発した言葉。


「「ありがとう」」


甘えてくれてありがとう。電話に出てくれてありがとう。勇気をくれてありがとう。側に居てくれてありがとう。お互いにどんな気持ちでその台詞を口にしたのか、はっきりとは分からない。でも今は全てのことに感謝したくなるような、最高の気分なんだ。電話を切った瞬間、待ち構えたように雨が上がって、太陽が顔を出した。


2017.11.16