Take my hand



「結局は何がしたかったの?」
「何って言われても」
「そんな面白いこと起きてたなら教えてよ」
「…あなたに電話したらかけ直す、って言ったまま放置されましたけど」
「そうだっけ」
「そうだよ。ソンミンだって年末は忙しかったんでしょ」


休日の昼下がり、暇を持て余していたらソンミンから電話がかかってきた。「時間空いたからお茶しよう」なんて女の子みたいな誘い方。私のことを茶化してみせるけど、本当はキュヒョンとのことを気にかけてくれていたんだと思う。


「まぁ良かったじゃん、仲直り出来て」
「そういえばソンミンの指輪物語も聞いたよ」
「誰に?」
「ヒチョル。彼女に公開プロポーズしたんでしょ?」
「えーそんなこと言ってんの?大袈裟だよ…」


ソンミンは何か嫌なことを思い出したらしく、ちょっと渋い顔をする。でも事の顛末を話しているうちに、少しずつ顔が緩んできた。その様子がものすごく微笑ましくて、私まで幸せな気持ちになる。自分が満たされているときは、他人の幸せも2倍に感じられるんだ。そのとき、誤摩化すように窓の外を眺めていたソンミンがいきなり悪戯っぽい顔になった。


「指輪と言えば」
「うん」
ってアクセサリー貰う率高くない?」
「は?唐突に何」
「だってこの間は指輪で、今回はネックレスでしょ」
「確かに」
「独占欲強いんだよ、身につけるものばっかりプレゼントする男って」


そう言って私の背中に視線を向けるから、つられて振り返ると、窓の外に頬を膨らましたキュヒョンが立っている。そういえば夕方に会う約束をしていたんだった。ソンミンとカフェにいるね、とついさっきメールをしたのに、話に夢中ですっかり忘れていた。


「ソンミン、と何してんの」
「見たら分かるでしょ。お茶飲んでる」
「今日は僕がご飯食べに行く約束してたのに」
「行けばいいじゃん。僕もう帰るし」
「え、そうなの?」
「…急に嬉しそうな顔するの止めてよ。何かショック」


キュヒョンの毒舌を適当にあしらうソンミンは、やっぱりお兄ちゃんなんだな、と思う。今日だって「時間が空いたから」なんて誘ってくれたけど、本当は時間を作ってくれたんだ。


「ソンミンごめん、今日は私が奢るからまたご飯行こう」
、それって浮気に入らないの?」
「ちょっとキュヒョンは黙っててよ」
「2人きりで行くのは駄目だからね」
「…束縛するだけの愛は無意味なんだよ、知ってた?」
「受け売りじゃん。しかも後輩の」


気付いたらソンミンはそそくさと逃げていた。呆れて伝票に手を伸ばすと、横からキュヒョンに奪われて、代わりに大きな手に包まれる。びっくりして顔をあげたら、不思議そうな顔のキュヒョンと目が合った。


「何?」
「別に。ありがとう」
「僕もありがと。待っててくれて」
「それ、ソンミンに言ってあげたら喜ぶんじゃない」
「言ったよ、心の中で」
「ちゃんと届いてるの?」
「多分」


外に出た瞬間、冷たい風が吹き付けて思わず顔を顰める。キュヒョンは笑いながら繋いだ手に力を込めた。それだけで体感温度がぐっと上がった気がした。



「ん?」
「明日からまた逢えなくなるかも」
「…どれくらい?」
「分かんない」


キュヒョンは悲しそうに目を伏せた。私は立ち止まって、唇にそっとキスを落とす。


「…、寂しくなったら電話していい?」
「いつもと逆だね」
「同じだよ」
「そうかな」
が思ってるより僕の方がずっと寂しいんだから」


キュヒョンが素直に寂しいと言ってくれるから、私も我慢せずに居られる。もう離れたいなんて思わないように、この幸せを噛みしめていこうね。ずっとずっと。


2012.01.21