日曜日の夜、映画館で



「キュヒョンのこと好きな友達がいる」
「え、そうなの?紹介してよ」
「やだ」
「は?何で」
「私もキュヒョンのこと好きだから」
「…って時々冗談が本気に聞こえるんだけど」
「本気じゃいけないの?」
「だってとは付き合いたくない。手がかかるし」
「嘘、それかなり衝撃」
「どうでもいいけど進んでよ。前が詰まってる」


日曜日の映画館はレイトショーの割に込み合っていて、公開したばかりの作品だから多少は覚悟していたけど、それでも予定外だった。おまけに冗談めかした告白までしてしまい、もう暫く気持ちを暖めておくつもりが大失態だ。急かすように背中を押されて、私は仕方なく足を動かす。キュヒョンは何事もなかったかのようにチケットを買うと、ちらっと席を確認してから顔を上げた。


、ポップコーン食べる?」
「うん、でもキャラメ…」
「先行ってて」


人の話を最後まで聞かずに、キュヒョンは人混みの中へ消えていった。その背中を見送りながら、私はぽつんと呟く。


「…キャラメルポップコーンが食べたかったのに」


スクリーン正面の席も空いていたけど、今日も無意識に端っこを選んでしまった。いつも真ん中にいると落ち着かなくて、電車に乗るときも気付けば端に座っていたりする。その割に人前に立つのは苦手じゃないし、手がかかるというキュヒョンの言葉は全くその通りだ。下らない自己分析をしていたら、目の前にいきなりポップコーンが現れてびっくりする。


って相変わらず端っこ好きだよね」
「ごめん…」
「いいよ慣れてるし」
「ねえ、これ何?」
「キャラメルポップコーン。違った?」
「いや、合ってる。良く分かったね」
「だってはいつもそうでしょ?」
「…ありがと」
「でもコーラばっかり飲んでたら骨が溶けるよ」


私の好み、全部分かってくれているんだ。差し出されたコーラを受け取る瞬間、ふと手が触れた。そんなの普段は気にも留めないのに、急に手を握りしめたい衝動に駆られる。意識を他のことに向けようとして口を開いた途端、また余計なことを言ってしまった。


「キュヒョン」
「うん」
「さっきのことなんだけど」
「どれ?骨が溶ける?」
「じゃなくて」
「友達の話?」
「違う。私本気で好きなんだよ、キュヒョンのこと」


パンフレットを眺めていたキュヒョンは、訝しげに私の顔を見た。続けて何か言おうとした瞬間、開演のアナウンスが響いて、場内が暗くなる。私はそれ以上何も言えなくて、スクリーンに集中している振りをした。キュヒョンは小さく溜め息をついて、同じように正面に視線を向ける。


終わってから言えば良かった。甘いはずのポップコーンが塩辛い。映画館でこんなに辛い時間を過ごすのは初めてだ。3時間超えの大作なんて言うから期待したのに、内容も大して面白くない。エンドロールに辿り着くまでが、私にとっては半日にも感じられた。


「…思ったより面白くなかったね」
「やっぱり僕の勘は当たってたでしょ」
「うん」
「これでアカデミー賞候補なんて詐欺だよ」


思った通りのエンディングで、ただ良かったのは主題歌だけ。キュヒョンはエンドロールをぼんやり見つめながら、冷めた口調で言った。


「僕もそんなもんだけど」
「何が?」
が思ってるほど面白くないよ」
「知ってる。アイドルなんて詐欺だよね」
「付き合おっか」
「はぁ?」
「嫌ならいいけど」


ぽかんとしているとキュヒョンは既に立ち上がっていて、空いている手を差し出した。慌ててその手を掴んで恐る恐る握りしめてみると、同じように握り返してくれた。夢にまで見た瞬間。


「キュヒョン、私のこと好きなの?」
「好きだよ。ずっと前から」
「何で?」
「何でって…駄目なの?」
「そんなことないけど」
「冗談だと思ってる?」
「うん。だって付き合いたくないって言ったじゃん」
「分かんない?好きな子ほど苛めたくなる心理」


キュヒョンはさらっと言ってのけたけど、映画館を出た瞬間、急に立ち止まる。


「どしたの?」
「いや、情けないなぁと思って」
「何が?」
「本当は僕から言いたかったのに」
「関係ないよそんなの」

「うん」
「僕と付き合って。ついでに結婚しようか」


さっき見た映画なんかより、こっちの方が何倍も衝撃的だと思う。私は大きく頷いて、繋いだ手に力を込めた。


2012.03.14