parfait ante meridiem



「…ねえ、もしかして本当に何でもなかったの?」
「お茶しようって言っただけだよ、私は」
「僕はてっきり悩みでもあるのかと思ってた」
「ただジェジュンに会いたくなった。それだけじゃ駄目?」
「いや、別に」


深夜0時、をとっくに過ぎた頃、から着信があった。パフェ食べたいから付き合って。それだけ言って電話を切られる。こんな時間にお茶をしようなんて異常だし、らしくない。心配になってすぐ家を出たら、本人は思いの外元気で拍子抜けする。


、食べ過ぎじゃない?太るよ」
「太るくらいで丁度良いの」
「えー僕はそのままが1番だと思うけど」
「ジェジュンの言葉は信用出来ない」
「何それ」


憎まれ口も相変わらずだし、やっぱりいつも通りだ。変わったところはない。強いて言うなら前髪を少し切ったような気がするけど、そんな些細なことがなりのサインだったりするんだろうか。


「今度は辛いものが食べたい」
「ストレスを食欲で発散させるのは良くないよ」
「ジェジュンが癒してくれるの?」
「僕に出来ることならするけど」
「無理だよ。会いたいときに会えないんだもん」
「来たじゃん、今日」
「私が異常なこと言い出したからでしょ」
「そんなことない」
「嘘。普段のジェジュンなら断ってるよ」


の言葉を否定することが出来ずに、僕は伝票をとって先に立ち上がった。はついて来ない。そのまま店の外に出て数分待った。まだついて来ない。10歩ほど歩いてもう少し待った。とぼとぼと歩くの姿が目に入る。


「ほら、早く」


の手を引いて、人気のない道を歩き始めた。でも繋いだ手は、心までは結んでくれない。一緒に歩くというより、僕が無理矢理歩かせているようだった。仕方なくペースを落としたとき、が下を向いたまま言った。


「ジェジュン、私今日、告白された」
「…誰に?」
「友達。付き合って欲しいって。寂しいときはいつも側に居てくれるって」
「へー、僕より大事にしてくれるって?」
「そんなこと言ってないでしょ」
「だって僕は異常な時しか会えないし」


の言葉が頭を過る。僕が「行かないで」と言えば、ただそれだけで元通りになるはずなのに言えなかった。何をするにも理由を探して、逢いたいから逢うことに違和感を感じてしまった僕には、これ以上を引き止める権利なんてない。現にこの気持ちだって、自分を守るための戯言だ。


「いいよ、行きなよ。が幸せならそれでいい」


そう口にした瞬間、頬に鋭い痛みが走った。女の子に叩かれたことは何度かある。でもこれほど痛みを感じたのは初めてだ。


「ジェジュンはずるいよ。何で1人だけ冷静なの」
「冷静じゃないよ」


冷静じゃない。言葉にしてみて気付いた。そうだよ、全然冷静じゃないんだ。僕はの肩を抱き寄せてキスをした。口の中にバニラの甘さが広がって、脳の動きは完全にストップする。


は僕のことが好きなんでしょ」
「…そうだよ、悔しいけど」
「僕もが好きだよ。会えなくたって好きだよ」


異常なことがなくたって、呼ばれたらいつでも飛んでいく。突然の衝動だって受けとめられる。溢れ出す想いは、僕を何倍も強くするんだ。



「なに?」
「誰のところにも行かないで。僕のことずっと好きでいて」


いま心から君に。


2011.08.03