Don't call his name



「歯医者が怖いの?なんで?」


ユノは笑いながら私の顔を見た。小さな子どもが言うならまだしも、二十歳を越えた大人が歯医者を怖がるなんて、自分でもおかしいと思う。でも怖いものは怖いんだ。


「だって最近は麻酔もすぐしてくれるし、痛みもないでしょ。変なの」
「診察台に乗せられたときの、まな板の鯉な感じとか」
「うん」
「何の器具使ってるのか分かんない感じとか」
「うん」
「抜歯するときに顔隠されて見えない感じとか」
「うん」
「怖くない?」
「別に」
「はぁ…ユノに言わなきゃ良かった」
「意識しすぎてるんじゃないの?慣れたら何ともないよ」
「何回行っても慣れないんだってば」
「じゃあ練習すれば?」
「なにユチョンみたいなこと言ってんの」
「どういう意味?」


ユノが首を傾げて怪訝な顔をするから、私はユチョンのスタンダードな手口を教えてあげた。きっとユチョンなら、ここでベッドに横たわらせて、目隠しなんかしてそのままやらしい雰囲気に持ち込むはずだ。すると、ユノは呆れたように「メンバーを犯罪者みたいに扱わないで」と言う。こちらとしてはむしろ、メンバーが女にとっていかに危険人物であるか、知っておくべきだと思う。


「でも、顔がそんなに嫌がってないよ」
「は?」
「ユチョンのこと。けちょんけちょんに言う割には嬉しそう」
「やきもちやいてるの?」
「別に」
「もしかしてユノも同じ手口考えてた?」
「違うよ」


ユノが急に黙り込んでしまった。良くない兆候だ。確実に拗ねている。


「なに怒ってんの」
「怒ってない」
「怒ってる」
「怒ってない」
「じゃあ私の顔見てよ」
「やだ」
「もう…」


どうやって機嫌を直して貰おうかな。普段そんなに怒らないユノだから、私の顔を見たくないほど機嫌を損ねたときは、今でも対処に困る。しかもタイミングがいいのか悪いのか、ユチョンから電話がかかってきた。さすがにここで電話に出るのはマズいと思って放置していたら、何度も何度も電話が鳴る。ユノは私に背を向けてベッドに寝転んでいるし、仕方がない。


「もしもし」
、何ですぐ出てくれないの』
「だってユチョンの電話、いつも大した内容じゃないし」
『今そこにユノもいる?』
「うん」
『飲みに行こうよ。3人で』
「いや、ちょっと今は取り込み中っていうか…」
『喧嘩?仲直りさせてあげるから、行こ』
「誰のせいよ」
『え、俺?』
「とりあえず今日は忙しいから、もう切るよ」


電話の向こう側でまだ何か言っていたけど、やっぱり大した内容じゃなかった。電話を切って振り向くと、ごろんと体の向きを変えたユノと目が合った。


「やっと私の顔見る気になった?」
「さっきのユチョン?」
「うん。3人で飲みに行こうって」
「ふーん」
「行かないでしょ?断っちゃったよ」
「行こうかな。より可愛い子がいるなら」
「もーいつまで拗ねてるの?」


ユノの頭を軽く叩いたら、いきなりその手を掴まれてキスをされた。不覚にもドキドキしている自分がいる。


「どれだけのこと好きかってことだよ」
「え、歯医者が?」
「違うよ。やきもちの方」
「分かってるよ」
「もー可愛くないなぁ」
「いいよ、ユチョンと飲みに行けば」
「しばらくその名前呼ぶの禁止」


呼ぶなら俺の名前呼んで。そう言ったユノの顔に、ますます心をくすぐられる。激しくなっていくキスと、大きな手の感触に全身を委ねて、一体自分が何を怖がっていたのか分からなくなった。確かに歯医者は怖いけど、もはやどうでもいい。ユノに愛される幸せと比べたら、そんなの眼中にも入らないから。もっと深く、ずっと奥まで、あなたの中に沈み込ませて。


2015.8.13