眠りに就く前に五題(Thanks:リライト
冷え症なきみへ寝物語をしよう絡めた君と僕の脚月明かりの下でいい夢をみるために



冷え症なきみへ

お風呂上がりにベランダで涼んでいると、何かがふわりと落ちてきた。一瞬天使でも舞い降りたのかと思ったけど、こんな街中で、しかもこんなに散らかった部屋に現れるわけがない。それでも期待したくなるほど今日の空は澄んでいた。肩にかけられたマフラーから微かにユノの匂いがする。

「ユノ、暑い」
「風邪引くよ、そんな格好じゃ」
「大丈夫」
「大丈夫じゃない」
「だって今年は暖冬だもん」
「でも夜は冷えるでしょ」
「私よりユノの方が心配だよ」

仕事も恋も遊びも全力でこなしているのに、もっと頑張らなきゃ、とユノはいつも言う。少しは気を抜いてくれないと、頑張っているつもりの私が怠けているように見えて困る。

、一瞬立って」
「は?」
「俺が座れない」
「そんな薄着で外出たら風邪引くよ」
「弱ってる俺が見たいんでしょ?」
「そういう意味じゃなくて」
「珍しく星が見えるね」
「人の話を聞いて下さい」


狭いベランダの隙間に2人くっついて座る。腰に回された手からユノの体温が流れ込んで、こんなに暖かくちゃ風邪なんて引けそうにない。


「今度はなに?」

振り向いた先にはユノの優しい笑顔があって、頬に小さなキスをくれた。

「…やっぱり冷たい」
「だって冷え性なんだもん」
「そろそろ中入ろっか」
「流れ星が見えるまで居たい」
「駄目」
「ユノだっていつも夜更かししてるじゃん」
「今日は早く寝るの」





寝物語をしよう

「全然眠たくないんだけど」
は寝過ぎ。今日何時に起きた?」
「朝は早起きしたけど昼寝しちゃったの」
「せっかくの休みが勿体ないよ」
「たまは家でのんびりしたいじゃん」
「いつもゲームばっかりしてるくせに」
「だって面白いんだもん」
「電気消すよ」

ユノは大あくびをして枕元のランプに手を伸ばした。カチッ、という音で部屋が暗闇に包まれる。でも私は寝る前にパソコンを触っていたせいか、目が冴えて仕方がない。すぐに痺れを切らして、ユノが消したランプをもう1度付ける。

「なんで付けるの」
「眠れない」
「俺は寝たいんだけど」
「音楽かけてもいい?」
「うるさいから嫌だ」
「じゃあ何か話して」
「寝るって約束する?」
「するする」

無茶苦茶なお願いなのに、ユノは真剣な顔で話題を探している。あまりに集中しすぎて、私が話しかけても完全に上の空。お陰でこっちはだんだん眠気に襲われてきた。

「ユノ、もういいよ」
「えーが話せって言ったのに」
「急に眠くなってきた」
「しょうがないなぁ」

今度こそ起こさないでよね。そう言ってユノはまた枕元に手を伸ばす。私は曖昧に頷いて瞼を閉じた。





絡めた君と僕の脚

今日は珍しく夢を見た。きっとベッドに早く入りすぎたんだ。涙が出るほど哀しい内容で、目が覚めた瞬間、夢で良かったと心底思った。それでも後味の悪さは消せなくて、ちゃんと布団を被っているのに何だか寒い。ちらっとユノの顔を見ると、気持ち良さそうに眠っている。

「呑気だなぁ…」

私は布団を肩まで引き上げて、ユノの背中をぎゅっと抱きしめる。暖かくて気持ち良い。そのままじっとしていると、ユノが微かに動いた。

「…どしたの」
「何でもない。起こしてごめん」

ユノはゆっくり体の向きを変えて、眠そうな顔で私を見た。


「ん?」
「怖くないでしょ、俺といたら」
「…そうだね」

全て見透かされている。私の返事に満足したらしく、ユノは掠れた声で小さく笑った。それだけで不安が消え去って、絡めた脚の隙間1ミリでさえ縮めたいと思う。

「距離って言わないよそんなの」
「ユノに触れてたいの。安心するから」
「…誘ってんの?いいよ、別に」
「何が」
のせいだよ。責任取ってね」





月明かりの下で

「ねーこれ早く寝た意味あるの?」
「起こしたのはでしょ」
「ユノが勝手に起きたんだよ」
「急に抱きついてくるんだもん。てっきりそういう意味かと」
「バカじゃないの」
「何か酷くない?俺の貴重な睡眠時間を奪っといて」
「だから寝ようよ」

さっきまで隣で眠っていたユノが、今は私の上にいる。カーテンの隙間から僅かに洩れる月明かりで、その表情がはっきりと分かった。誘っているのはユノだ。

、こっち向いて」

まだ半分夢見心地だったのに、気付いたら吐息が感じられるほどの距離にいる。視界に映る月が遮られて、長いキスが始まった。予定より随分早く起こされた体が、ゆっくりと昂っていく。

「…冷たっ」
「なにが?」
の手。氷みたい」
「ごめん、心臓止まっちゃうね」
「別にいいよ」

誰もが寝静まっている月明かりの下、静寂を突き破るようにベッドが軋む。そっとユノに触れたら小さく体が動いて、やっぱり冷え性を直さなきゃいけないな、としみじみ思った。

「ユノ」
「ん?」
「あっためて。凍えそう」





いい夢をみるために

「さっきどんな夢見たの?」
「もう忘れちゃった」
「泣いてたのに」
「いいんだ。今が幸せだから」

このままユノに包まれて眠りに就きたい。どんな悪夢も蹴散らして、いい夢にしてくれそうだから。

「ユノは?夢見ないの?」
「見るよ」
「どんな夢?」
の夢とか」
「えー嘘でしょ?私だって滅多にユノの夢見ないのに」
「俺の方がいっぱい愛してるんだよ」

ユノは勝ち誇ったように笑って、私を抱きしめる腕に力を込めた。しばらくそのままで居ると、数分後には規則正しい寝息が聞こえて、また辺りに静けさが戻る。

「…私の方が愛してると思うけどなぁ」

そっと呟いて、口元にキスを落とした。こんなに幸せな夜は久しぶりだから、しっかり心に焼き付けておこう。寂しさで眠れなくなったとき、すぐに取り出して笑顔になれるように。

「おやすみ」

月も星も太陽も、少し一緒に眠ろうか。





2011.10.26