Awareness



「ジュンスそろそろ起きなきゃ遅刻するぞ」
「うー寒い…」
「動けばマシになる」
「…そりゃユノは」
「何だよ」
「幸せだから」


別に寝坊したわけじゃない。ただ部屋から出たくなかっただけ。今朝は遠くでちゃんの声がして目覚めた。あぁ、昨日はユノの部屋に泊まったんだな。その事実がますます僕を落胆させる。どうしても、勝手に頭の中で想像してしまうから。2人がどんな顔で笑い合って、触れ合って、愛し合ったのか。もし僕がちゃんの彼氏だったとしても、ユノと同じようには出来ないことが分かっている。だから尚更悔しい。


「あ、ジュンス起きたんだ。おはよ」
「おはよう。ちゃんまた泊まり?」
「ごめん、うるさかった?」
「ううん。幸せオーラが出てる」


平静を装ったものの、内心切なくて堪らない。ちゃんがいれてくれたコーヒーは思いのほか熱くて、一口飲んだ瞬間、その温度に顔をしかめる。誰にも見られないようにため息をついて、朝の光を遮るように目を閉じた。睡眠不足の気怠さと、湧き上がる嫉妬。この2つにはもう慣れっこのはずなのに、まだ敏感に反応する自分がいる。


ちゃん泊まってたんだね、知らなかった」
「…ユチョンうるさい。耳元で大声出すな」
「お、何か不機嫌じゃん。どしたの?」
「放っといてよ」


本物の寝坊をしたらしいユチョンが、ボサボサの頭でやって来た。悪気はなかったのに、思わず冷たい口調になる。僕は目覚める前から分かってた。どんなに小さくても、微かだったとしても、ちゃんの声はすぐに分かる。聞こえない振りをしたって、自然に体がキャッチしてる。本当は、ユノを想っているちゃんの声なんて聞きたくない。聞きたくないんだ。でも耳を覆うことはしない。ちゃんの声を聞いて、心のどこかで嬉しく感じているのも事実だから。


「ユチョンも早くしないと遅刻するよー」
ちゃん、ジュンスが変なんだけど」
「具合悪いの?」
「機嫌が悪いみたい」
「朝だからじゃなくて?」


僕の機嫌が悪いことを分かっているくせに、ユチョンは余計悪化させるようなことを言う。ちゃんは僕の隣に座って、まるで弟にするみたいに額を触った。その瞬間、ドクン、と全身の血管が波打つ。「ごめん」僕は短くそう言って、洗面所に駆け込んだ。歯磨きをしていたユノが、驚いたように僕を見る。鏡に映った自分の顔は、思ったより普通だった。でもちゃんに触れられた額だけが、燃えるように熱い。


「ジュンス、どした?」
「ちょっと…気持ち悪くなっただけ」


額に滲む汗を隠すように、顔を洗って自分の部屋に入った。ベッドに倒れ込むように寝転がる。そっと開けられたドアの隙間から、代わる代わるメンバーの顔が覗いた。少し休んだら楽になるから。僕はそう言って無理矢理笑顔を作る。こんな醜い感情、ちゃんにだけは絶対に見せたくなかった。でも神様は意地悪だ。


「昨日あんまり眠れなくて…」


言い訳を並べているうち、鼻の奥にツンとした痛みを感じた。目の前の景色が次第にぼやけて、自分が泣いていることに気付く。慌ててちゃんに背を向けたけど、涙が止まらない。


「…ごめん」
「謝らなくていいよ」


ちゃんはそれだけ言って、そっと僕の背中を撫でてくれる。僕の気持ちを分かっているのか、全く違うことを思い描いているのかは分からない。だけどその仕草がとても優しくて、涙が止まってもしばらく動くことが出来なかった。


2010.09.28